edenworks 篠崎恵美 SHINOZAKI MEGUMI

鳥のさえずりが聞こえる会場の真ん中にあるのは、10人、20人ほどが横になることができそうな大きなベッド。その上に、無数の花が浮かんでいる。横になってみると、視野のすべてを占める膨大な量の花と、ベッドの心地よさが相舞って、まるで花に包まれているかのような気分になる。この作品を手がけたのは、フラワークリイエイター篠崎恵美が主宰するクリエイティブスタジオ「edenworks」。『Now/Then』と題し、「ルーフミュージアム」2階でインスタレーションエキシビションを開催している。「edenworks」が花を通して伝えたい想いや、篠崎恵美の活動の原点、そして『Now/Then』について、「edenworks bedroom」と会場で語っていただいた。

“花を棄てずに未来へ繋げる”
edenworksの取り組み

--いまお伺いしている「edenworks bedroom」は、2015年に篠崎さんが最初にオープンされた店舗ですね。「ルーフミュージアム」で開催されているインスタレーションエキシビション『Now/Then』と同じく、お店の中央にベッドが置かれていることに加えて、店名にも“bedroom”とついていますが、どのような意味を込めて「edenworks bedroom」とつけられたのでしょうか?

“bedroom”という言葉は、お店をオープンする前から作品の名前として使っていました。「生まれる時や死を迎える時、1日の始まりと終わりを迎える時に、人はベッドの上にいる」と思ったところから、ベッドって人間にとってすごく大切な存在だと感じて。花も生き物なので、人が生まれてから死に向かうところと繋がるなと思いました。edenworksとして初めてのフラワーショップだったので、はじまりの場所として「edenworks bedroom」と名前をつけました。

--お店を作る何年も前からフラワークリエイターとしてご活躍されていましたが、なぜあえてお店を作ろうと思われたのでしょうか?

フラワーショップをオープンするまでは、ウインドウや店舗、CMやミュージックビデオのセットの装飾など、クライアント仕事が中心でした。理由は、使う花の数をある程度把握し、花をなるべく棄てずに活動する為です。ですが、誕生日やバレンタイン、ホワイトデー、母の日、クリスマスなど、一般のお客さまが花を必要とする時にedenworksの花をお届けしたいという想いから、お店をスタートすることにしました。クライアント仕事との兼ね合いで、週末だけですが。

--なぜこの場所にオープンしたのでしょうか?

内見の1軒目でここに来て、直感で「ここにする」と決めました。花屋って、通常は駅の中にあったり、商店街にあったり、建物の1階にあったりするものだと思うのですが、私はお客さまと1対1の親密な花の繋がりを持ちたかったので、あえて雑居ビルの2階(現在は3階)にオープンすることにして。その理由としては、クライアント仕事は一般のお客さまとお話しする機会があまりないので、「さまざまな年代のお客さまが、どんな花を求めているのか」とか、「“かわいい”と思うものって違うのかな」とか、接客をちゃんとしてコミュニケーションをしたいと思ったからでした。いま現在は駅直結の場所にも店舗をオープンしたので、edenworksも少しずつ変化はしていますが、「edenworks bedroom」は初心を忘れずにコンセプトを大切にしていきたいと思っています。

--ほかのお店のコンセプトについて、それぞれお聞かせいただけますか?

「edenworks bedroom」の次に2017年にオープンさせたのが「EW.Pharmacy」です。私が花屋で下積みをしていた頃は、花を棄てることが仕事のひとつでしたが、自分の中でずっと納得できず、モヤモヤしていました。独立してからは「花をなるべく棄てないために何ができるだろうか」と考えながら、花を綺麗にドライフラワーにすることを研究していました。そんな時にたまたま風邪をひいて病院へ行き、先生に症状を伝えたら処方箋を書いてくれて。その処方箋を調剤薬局に出して、自分の症状に合ったお薬が出てきた時に、「この工程を花でできたら、新しい販売方法が生まれるのではないか」と思いつき、オリジナルでカスタマイズできるドライフラワー専門店をスタートさせました。
2019年には、お客さまの“花を棄てたくない”という想いにお応えする為、生花のウエディングブーケや記念日の花をお預かりして、オリジナルのドライシステムでドライフラワーに加工し、再度アレンジメントする“Re Arrangement”というサービスを導入した「PLANT by edenworks」を立ち上げました。その直後、コロナ禍になってからは形態を変え、ドライフラワーにならない葉っぱや茎などをコンポストして植物に追肥する取り組みを行う「conservatory by edenworks」をオープンしています。

--そして2021年にはNEWoMan新宿内に「ew.note」をオープンされていますが、ほかのお店と違って駅直結の、人通りの多いところにあります。なぜこのような場所に作られたのでしょうか?

2021年はコロナ禍の真っ只中で、これから世界がどうなっていくのか不安な時期だったので、お客さまに寄り添う花屋があったら、スタッフも含めて元気になるのではと思いました。「edenworks bedroom」の週末限定のフラワーショップとは違い、「ew.note」は日常的な花屋としてオープンしました。

--お店のほかに、紙の花のブランド「PAPER EDEN」も手がけていらっしゃいますね。

現在はインターネットで手軽にものが買えますが、私が子どもの頃はいまほどインターネットが普及していなくて、誰かにギフトする時には買いに出かけて選んでいました。でも、手づくりが好きな私の母は、そういう時にいつも自分が手づくりしたものを贈っていて、すごく素敵なことだなあって思っていました。“ものを作って誰かにギフトする”という考え方を繋いでいく為に、母が祖母に習ったと言っていた紙の花を大切にオマージュし、オリジナリティを足して「PAPER EDEN」を立ち上げました。花は雄しべと雌しべがひとつになっていることから、ユニセックスでグラフィカルなデザインにしています。

--お母さまが作られていた花は、ご実家にも飾られていたんですか?

基本的にギフトしていたので手元にはほとんどないのですが、家にも少し飾っていました。手芸が好きな普通の母ですが、“誰かにあげたいから作る”って、一番素敵なことだなって思っています。

花との再会で見つけた
これから極めていくべき

--篠崎さんは、もともとファッション関係のお仕事をされていたんですよね。

ファッションの専門学校に行って勉強したあとに、ファッション関係の会社で働いていました。でも“自分らしさ”が見出せず悩んでいました。そんな時、ふらっと立ち寄った花屋さんで「スタッフ募集」という張り紙を見て、「すみません、ここで働かせてください」って、その場で転職を決めてしまったんです。そのきっかけも、母が家中のいたるところに花を飾っていたことにありました。
私が実家から自立してひとり暮らしを始めた時、“寂しく物足りないけど、何だろう”とずっと探していました。その花屋さんにたまたま立ち寄った際に、懐かしさと、探していたものが見つかった感覚がして、「お母さんって家のなかにいつも花を飾っていたんだ。ひとり暮らしの家にないものってこれだったんだ」ってハッとして、思わず「働かせてください」って声をかけていました。
母が飾っていた花は、どこかで買ってきたような立派なものではなくて、庭に咲いていたものだったり、いただいた花を大切にドライフラワーにしたものだったり。そんな光景が物心ついた時から日常にあったので、“家に花が飾ってある”という意識すらないくらい、私にとって花は当たり前にある存在で。ひとり暮らしをして初めて「足りないのは花だったんだ」って気づきました。

--「edenworks bedroom」の物件を決められた時もそうですが、直感を大切にされているのでしょうか?

昔は「そうかも」、「これがいいかな」と思ったら、1回寝るようにしていたんです。起きても変わらない気持ちだったら「それなんだな」って。ただ、花屋さんになることを決めた時は直感でしたね。自分のことだから直感で動いて失敗しても、自分が苦労するだけだからよかった。でも会社になってからは、それができなくなってしまいました。人に迷惑がかかってしまうので吟味しますが、基本的には「あっ」という直感を大切にしています。

--異業種に飛び込むことは勇気がいるようにも思うのですが、迷いや不安はありませんでしたか?

ファッションを仕事にすることに迷っていて、「何か違うなあ」と思っていたところだったので、そこに不安を感じるというよりは、花と再会してハッとしたことの方が大きかったですね。あとは花に関しての知識がなかった分、飛び込みやすかったのかもしれません。元を辿ると、花はそばにあるのが当たり前だったので興味を持ったこともなかったし、「この花の名前は?」って聞いたこともないくらい何の知識もなかったので、何も怖くありませんでした。

--花屋さんになるとお母さまにご報告された時は、どんなリアクションでしたか?

すごく驚いていました。「花、好きだったっけ?」って笑われました。中学生のころから音楽とファッションにしか興味がなくて、「ブランドのデザイナーさんってすごいなあ」、「アーティストってかっこいいなあ」って話しかしていなかった娘が、いきなり花屋さんになると言い出したので。

--驚かれたとはいえ、やはりお母さまなので、合点がいく部分もあったのではないでしょうか?

ファッション業界の仕事が向いていないと思っていた理由が、“いま伝えたいことを、いま伝えられない”ことでした。企画したものが発表されるまで数ヵ月かかってしまい、自分の気持ちと発表のタイミングのタイムロスがすごくもどかしくて。でも花は、すぐに伝えないとどんどん変化してしまうから、動かなければいけない。私は昔から「いま伝えないと後悔する」という気持ちが強く、伝えたいと思ったらすぐに動くタイプだったので、「そういうところは花を扱う仕事に向いているね」と言われました。

--篠崎さんの持ち前のスピード感というか、熱量を行動に移す力がお花の命の長さとフィットしたのですね。

そうですね。花もそうですが、人の気持ちも儚いものだと思っています。時間が経つと気が変わることってあるじゃないですか。だから「いますぐ伝えなきゃ」という原動力が昔からありました。どんなことも後回しにしたくないんです。

100点満点の花を、
心を込めて120点にする仕事

--具体的にはどのように花を作るのでしょうか?

隣にお客さまがいる時は、会話をするように花をアレンジしていきます。人と話す時って、「これを言ったら傷つけてしまうかな」、「これを言ったら喜んでくれるかな」って、何となくわかるじゃないですか。それと同じような感覚で、お客さまと話しながら「この花は気に入ってくれそうだな」と思いながら組んでいるイメージです。何度か来てくださっているお客さまには、「今回はこんな雰囲気のものにも挑戦してみたらどうですか」と提案することもあります。ギフトの場合は、お客さまから聞いた話をもとに贈る相手をイメージして作るというよりは、隣にいるお客さまを主体として、その方がお相手をどう思っているかを表現しています。男性が女性に贈る花束を作るとしたら、私が彼女のことを思って作るのではなくて、その男性がイメージする花を代理で組む感じ。クライアント仕事の時も同じで、クライアントがどうイメージしているかを汲み取って作る。私はアーティストとは違って、一から創り出すものではなく、相手がイメージすることを具現化しているのです。それに、花自体がそのままで素晴らしい造形物。しかも生きているので、絶対に無駄にはしたくない。100点満点を、心を込めて120点にすることが私の仕事です。

--篠崎さんの作る花は、自由で、洗練されていて、とても素敵ですよね。

花を誰かに習ったことがないので、自由にさせてもらっているなあって思います。でも、デザインするとか、おしゃれにするってことではないんですよね。花はもともとすごく素敵だから、それを見て欲しいなあと思っています。今回のエキシビションも、会場である「ルーフミュージアム」の2階がとても広く、いい意味で無機質なので、什器は全てグレーで統一することで要素をなくし、花だけが圧倒的に華やかになるように表現しました。花の吊るし方にもこだわりがあります。ただ吊るすと花の頭の部分が重く、下げられているように見えてネガティブな印象になってしまうので、角度をつけて固定し、自由に舞い上がるようにしたのがポイントです。花の数は2万本近いので、ひとつひとつの固定は気の遠くなる作業でしたが、edenworksスタッフは素晴らしいチームなので、根気よく作業していきました。

--一貫していますね。今回のエキシビションもそうですし、お店のつくりも、ラッピングも、“花の美しさを伝えたい”という想いがいろんなところから感じられます。とはいえ、篠崎さんはやはりとてもセンスのある方だと思うのですが、センスの源はどこにあるのでしょうか?

個性のあるものが好きだから、茎が曲がっていたり、変わった咲き方をしている花を市場で仕入れてしまうことが多くて。そういった個性的な花同士を組み合わせるのが好きなので、通常は合わせないセレクトをすることもあります。

--花の選び方から組み方まで、いろんなところに篠崎さんらしさが出ているのですね。下積み時代を経て2009年に独立されてから長くご活躍されていますが、この仕事のどんなところが楽しいですか?

花の仕事って、可能性が無限に広がっていると思うんです。私は、生花をドライフラワーにしたりペーパーで再構築させたりと、生き物だからこその大変さを逆手にとって発想することが好きです。そこが楽しい。いままで花にたくさんの希望をもらったので、これからもっと恩返しができたらいいなと思っています。

“作品のカケラ”を持ち帰るまでがコンセプト
edenworksが描く「今と、それから」

--今回のエキシビション『Now/Then』では、会場の中央に大きなベッドが置かれ、その上にたくさんの花が舞っているように見えます。どのようなことを表現されていますか?

この作品では、生きた花の“瞬間(生きている一瞬の時間)と永遠(ドライフラワーに変化してから続く時間)”が混ざり合う「今と、それから」を表現しています。先ほどお話ししたように、人は生まれた時も死を迎える時もベッドにいることから、私はベッド自体を人生の縮図として考えています。人間と同じように花も、生から死へと変化していくので、時間の経過の表現として今回の作品にもベッドを用い、インスタレーションを完成させました。大きなベッドにたくさんの人たちが座ったり、寝転がったりして花を眺めてくださる姿は、とても豊かで平和な光景です。

--会場の入口や奥に飾ってあるガラスのボトルに入ったドライフラワーは、標本のようです。

毎週末「edenworks bedroom」用に仕入れた生花をひとつひとつ撮影して、綺麗に咲かせてからドライフラワーにして、また撮影する。その後はボトルに入れて標本。花を残していきたい気持ちで日常的にしてきたことは今回の展示にリンクしており、日々の象徴として並べました。そして、撮り溜めた生花とドライフラワーの写真たちは、今回のエキシビションのために編集して、花図鑑のようなZINE『Now/Then』になりました。
タイトルの『Now/Then』は日本語では「今と、それから」。edenworksが掲げている“花を棄てずに未来へ繋げる”という理念の一貫として、このような形で残しています。

--ドライフラワーとして残したり、写真に収めて残したり、いろんな形で未来へ繋げているのですね。今回のエキシビションのために作られたグッズのなかにはスワッグとボトルもありますが、こちらはどのようなものなのでしょうか?

今回のインスタレーションは、作品としてそのままの状態で残すことが叶わないものです。会期後に棄ててしまうのではなく、この場所でドライフラワーになったという証を、スワッグやボトルに再度アレンジして、作品のカケラを作っています。大切に愛でていただけるお客さまの手元に渡っていったらいいなという願いを込めて。

--3/4(土)にはミラーを作るワークショップ、3/21(火・祝)にはクロージングイベントも予定されていますが、そちらも同じ想いから企画されたのでしょうか?

そうですね。イベントを開催することで、一般のお客さまが花に触れる機会を作り、花の楽しさを実感していただきたいと思いました。ミラーを作るワークショップでは、花を日常的に持ち歩くコンパクトなミラーをご自身で作ることを。クロージングイベントでは、お客さまに好きなお花を摘んでいただくことを企画しています。3/20(月)にインスタレーションを一度解体し、最終日の3/21(火・祝)に別のセッティングをして、お客さまをお迎えします。ドライフラワーはとても繊細なので、パッケージングしてお持ち帰りいただく予定です。
このようにして今回のエキシビションで飾った花は、全て棄てません。“fragment package(作品のカケラ)”としてお客さまの思い出のひとつにしていただくまでが、『Now/Then』の構成になっています。

--ワークショップやイベントも含めて、“花を棄てずに未来へ繋げる”のですね。最後に、今後やりたいことがあればお聞かせください。

今回の『Now/Then』のように、edenworksが作ったものを見ていただくだけではなく、お客さまご自身に体験していただく作品づくりをしていきたいです。その体験をきっかけに花を大切にすること、そこから派生してものや人を大切にすることに繋げていただけるような作品を、今後も展開していけたらいいなと思っています。

--ありがとうございました。3/21(火・祝)のクロージングイベントも、たくさんのお客さまに体験していただけるといいですね。



photography Kase Kentaro
text Hiraiwa Mayuka

edenworks 篠崎恵美(エデンワークス しのざきめぐみ)

「花を棄てずに未来へ繋げる」を理念に掲げ、独自の感性で花の可能性を引き出し、花のロスを最大限に無くすクリエイションをする。店内装飾からウィンドウ装花、雑誌、広告、CM、MVなど、花にまつわる創作を広く行っている。週末限定のフラワーショップ「edenworks bedroom」、ドライフラワーショップ「EW.Pharmacy」、植物のコンセプトショップ「conservatory by edenworks」、花と人を繋ぐフラワーショップ「ew.note」など様々なショップを展開している。また、2017年にイタリア ミラノで紙の花プロジェクト「PAPER EDEN」を発表。ブランドとのコラボレーションやインスタレーションなど、アーティストとしても国内外で活動中。

https://edenworks.jp
IG: edenworks_

edenworks 篠崎恵美 SHINOZAKI MEGUMI

鳥のさえずりが聞こえる会場の真ん中にあるのは、10人、20人ほどが横になることができそうな大きなベッド。その上に、無数の花が浮かんでいる。横になってみると、視野のすべてを占める膨大な量の花と、ベッドの心地よさが相舞って、まるで花に包まれているかのような気分になる。この作品を手がけたのは、フラワークリイエイター篠崎恵美が主宰するクリエイティブスタジオ「edenworks」。『Now/Then』と題し、「ルーフミュージアム」2階でインスタレーションエキシビションを開催している。「edenworks」が花を通して伝えたい想いや、篠崎恵美の活動の原点、そして『Now/Then』について、「edenworks bedroom」と会場で語っていただいた。

“花を棄てずに未来へ繋げる”
edenworksの取り組み

--いまお伺いしている「edenworks bedroom」は、2015年に篠崎さんが最初にオープンされた店舗ですね。「ルーフミュージアム」で開催されているインスタレーションエキシビション『Now/Then』と同じく、お店の中央にベッドが置かれていることに加えて、店名にも“bedroom”とついていますが、どのような意味を込めて「edenworks bedroom」とつけられたのでしょうか?

 “bedroom”という言葉は、お店をオープンする前から作品の名前として使っていました。「生まれる時や死を迎える時、1日の始まりと終わりを迎える時に、人はベッドの上にいる」と思ったところから、ベッドって人間にとってすごく大切な存在だと感じて。花も生き物なので、人が生まれてから死に向かうところと繋がるなと思いました。edenworksとして初めてのフラワーショップだったので、はじまりの場所として「edenworks bedroom」と名前をつけました。

--お店を作る何年も前からフラワークリエイターとしてご活躍されていましたが、なぜあえてお店を作ろうと思われたのでしょうか?

フラワーショップをオープンするまでは、ウインドウや店舗、CMやミュージックビデオのセットの装飾など、クライアント仕事が中心でした。理由は、使う花の数をある程度把握し、花をなるべく棄てずに活動する為です。ですが、誕生日やバレンタイン、ホワイトデー、母の日、クリスマスなど、一般のお客さまが花を必要とする時にedenworksの花をお届けしたいという想いから、お店をスタートすることにしました。クライアント仕事との兼ね合いで、週末だけですが。

--なぜこの場所にオープンしたのでしょうか?

内見の1軒目でここに来て、直感で「ここにする」と決めました。花屋って、通常は駅の中にあったり、商店街にあったり、建物の1階にあったりするものだと思うのですが、私はお客さまと1対1の親密な花の繋がりを持ちたかったので、あえて雑居ビルの2階(現在は3階)にオープンすることにして。その理由としては、クライアント仕事は一般のお客さまとお話しする機会があまりないので、「さまざまな年代のお客さまが、どんな花を求めているのか」とか、「“かわいい”と思うものって違うのかな」とか、接客をちゃんとしてコミュニケーションをしたいと思ったからでした。いま現在は駅直結の場所にも店舗をオープンしたので、edenworksも少しずつ変化はしていますが、「edenworks bedroom」は初心を忘れずにコンセプトを大切にしていきたいと思っています。

--ほかのお店のコンセプトについて、それぞれお聞かせいただけますか?

「edenworks bedroom」の次に2017年にオープンさせたのが「EW.Pharmacy」です。私が花屋で下積みをしていた頃は、花を棄てることが仕事のひとつでしたが、自分の中でずっと納得できず、モヤモヤしていました。独立してからは「花をなるべく棄てないために何ができるだろうか」と考えながら、花を綺麗にドライフラワーにすることを研究していました。そんな時にたまたま風邪をひいて病院へ行き、先生に症状を伝えたら処方箋を書いてくれて。その処方箋を調剤薬局に出して、自分の症状に合ったお薬が出てきた時に、「この工程を花でできたら、新しい販売方法が生まれるのではないか」と思いつき、オリジナルでカスタマイズできるドライフラワー専門店をスタートさせました。
2019年には、お客さまの“花を棄てたくない”という想いにお応えする為、生花のウエディングブーケや記念日の花をお預かりして、オリジナルのドライシステムでドライフラワーに加工し、再度アレンジメントする“Re Arrangement”というサービスを導入した「PLANT by edenworks」を立ち上げました。その直後、コロナ禍になってからは形態を変え、ドライフラワーにならない葉っぱや茎などをコンポストして植物に追肥する取り組みを行う「conservatory by edenworks」をオープンしています。

--そして2021年にはNEWoMan新宿内に「ew.note」をオープンされていますが、ほかのお店と違って駅直結の、人通りの多いところにあります。なぜこのような場所に作られたのでしょうか?

2021年はコロナ禍の真っ只中で、これから世界がどうなっていくのか不安な時期だったので、お客さまに寄り添う花屋があったら、スタッフも含めて元気になるのではと思いました。「edenworks bedroom」の週末限定のフラワーショップとは違い、「ew.note」は日常的な花屋としてオープンしました。

--お店のほかに、紙の花のブランド「PAPER EDEN」も手がけていらっしゃいますね。

現在はインターネットで手軽にものが買えますが、私が子どもの頃はいまほどインターネットが普及していなくて、誰かにギフトする時には買いに出かけて選んでいました。でも、手づくりが好きな私の母は、そういう時にいつも自分が手づくりしたものを贈っていて、すごく素敵なことだなあって思っていました。“ものを作って誰かにギフトする”という考え方を繋いでいく為に、母が祖母に習ったと言っていた紙の花を大切にオマージュし、オリジナリティを足して「PAPER EDEN」を立ち上げました。花は雄しべと雌しべがひとつになっていることから、ユニセックスでグラフィカルなデザインにしています。

--お母さまが作られていた花は、ご実家にも飾られていたんですか?

基本的にギフトしていたので手元にはほとんどないのですが、家にも少し飾っていました。手芸が好きな普通の母ですが、“誰かにあげたいから作る”って、一番素敵なことだなって思っています。

花との再会で見つけた
これから極めていくべき道

--篠崎さんは、もともとファッション関係のお仕事をされていたんですよね。

ファッションの専門学校に行って勉強したあとに、ファッション関係の会社で働いていました。でも“自分らしさ”が見出せず悩んでいました。そんな時、ふらっと立ち寄った花屋さんで「スタッフ募集」という張り紙を見て、「すみません、ここで働かせてください」って、その場で転職を決めてしまったんです。そのきっかけも、母が家中のいたるところに花を飾っていたことにありました。
私が実家から自立してひとり暮らしを始めた時、“寂しく物足りないけど、何だろう”とずっと探していました。その花屋さんにたまたま立ち寄った際に、懐かしさと、探していたものが見つかった感覚がして、「お母さんって家のなかにいつも花を飾っていたんだ。ひとり暮らしの家にないものってこれだったんだ」ってハッとして、思わず「働かせてください」って声をかけていました。
母が飾っていた花は、どこかで買ってきたような立派なものではなくて、庭に咲いていたものだったり、いただいた花を大切にドライフラワーにしたものだったり。そんな光景が物心ついた時から日常にあったので、“家に花が飾ってある”という意識すらないくらい、私にとって花は当たり前にある存在で。ひとり暮らしをして初めて「足りないのは花だったんだ」って気づきました。

--「edenworks bedroom」の物件を決められた時もそうですが、直感を大切にされているのでしょうか?

昔は「そうかも」、「これがいいかな」と思ったら、1回寝るようにしていたんです。起きても変わらない気持ちだったら「それなんだな」って。ただ、花屋さんになることを決めた時は直感でしたね。自分のことだから直感で動いて失敗しても、自分が苦労するだけだからよかった。でも会社になってからは、それができなくなってしまいました。人に迷惑がかかってしまうので吟味しますが、基本的には「あっ」という直感を大切にしています。

--異業種に飛び込むことは勇気がいるようにも思うのですが、迷いや不安はありませんでしたか?

ファッションを仕事にすることに迷っていて、「何か違うなあ」と思っていたところだったので、そこに不安を感じるというよりは、花と再会してハッとしたことの方が大きかったですね。あとは花に関しての知識がなかった分、飛び込みやすかったのかもしれません。元を辿ると、花はそばにあるのが当たり前だったので興味を持ったこともなかったし、「この花の名前は?」って聞いたこともないくらい何の知識もなかったので、何も怖くありませんでした。

--花屋さんになるとお母さまにご報告された時は、どんなリアクションでしたか?

すごく驚いていました。「花、好きだったっけ?」って笑われました。中学生のころから音楽とファッションにしか興味がなくて、「ブランドのデザイナーさんってすごいなあ」、「アーティストってかっこいいなあ」って話しかしていなかった娘が、いきなり花屋さんになると言い出したので。

--驚かれたとはいえ、やはりお母さまなので、合点がいく部分もあったのではないでしょうか?

ファッション業界の仕事が向いていないと思っていた理由が、“いま伝えたいことを、いま伝えられない”ことでした。企画したものが発表されるまで数ヵ月かかってしまい、自分の気持ちと発表のタイミングのタイムロスがすごくもどかしくて。でも花は、すぐに伝えないとどんどん変化してしまうから、動かなければいけない。私は昔から「いま伝えないと後悔する」という気持ちが強く、伝えたいと思ったらすぐに動くタイプだったので、「そういうところは花を扱う仕事に向いているね」と言われました。

--篠崎さんの持ち前のスピード感というか、熱量を行動に移す力がお花の命の長さとフィットしたのですね。

そうですね。花もそうですが、人の気持ちも儚いものだと思っています。時間が経つと気が変わることってあるじゃないですか。だから「いますぐ伝えなきゃ」という原動力が昔からありました。どんなことも後回しにしたくないんです。

100点満点の花を、
心を込めて120点にする仕事

--具体的にはどのように花を作るのでしょうか?

隣にお客さまがいる時は、会話をするように花をアレンジしていきます。人と話す時って、「これを言ったら傷つけてしまうかな」、「これを言ったら喜んでくれるかな」って、何となくわかるじゃないですか。それと同じような感覚で、お客さまと話しながら「この花は気に入ってくれそうだな」と思いながら組んでいるイメージです。何度か来てくださっているお客さまには、「今回はこんな雰囲気のものにも挑戦してみたらどうですか」と提案することもあります。ギフトの場合は、お客さまから聞いた話をもとに贈る相手をイメージして作るというよりは、隣にいるお客さまを主体として、その方がお相手をどう思っているかを表現しています。男性が女性に贈る花束を作るとしたら、私が彼女のことを思って作るのではなくて、その男性がイメージする花を代理で組む感じ。クライアント仕事の時も同じで、クライアントがどうイメージしているかを汲み取って作る。私はアーティストとは違って、一から創り出すものではなく、相手がイメージすることを具現化しているのです。それに、花自体がそのままで素晴らしい造形物。しかも生きているので、絶対に無駄にはしたくない。100点満点を、心を込めて120点にすることが私の仕事です。

--篠崎さんの作る花は、自由で、洗練されていて、とても素敵ですよね。

花を誰かに習ったことがないので、自由にさせてもらっているなあって思います。でも、デザインするとか、おしゃれにするってことではないんですよね。花はもともとすごく素敵だから、それを見て欲しいなあと思っています。今回のエキシビションも、会場である「ルーフミュージアム」の2階がとても広く、いい意味で無機質なので、什器は全てグレーで統一することで要素をなくし、花だけが圧倒的に華やかになるように表現しました。花の吊るし方にもこだわりがあります。ただ吊るすと花の頭の部分が重く、下げられているように見えてネガティブな印象になってしまうので、角度をつけて固定し、自由に舞い上がるようにしたのがポイントです。花の数は2万本近いので、ひとつひとつの固定は気の遠くなる作業でしたが、edenworksスタッフは素晴らしいチームなので、根気よく作業していきました。

--一貫していますね。今回のエキシビションもそうですし、お店のつくりも、ラッピングも、“花の美しさを伝えたい”という想いがいろんなところから感じられます。とはいえ、篠崎さんはやはりとてもセンスのある方だと思うのですが、センスの源はどこにあるのでしょうか?

個性のあるものが好きだから、茎が曲がっていたり、変わった咲き方をしている花を市場で仕入れてしまうことが多くて。そういった個性的な花同士を組み合わせるのが好きなので、通常は合わせないセレクトをすることもあります。

--花の選び方から組み方まで、いろんなところに篠崎さんらしさが出ているのですね。下積み時代を経て2009年に独立されてから長くご活躍されていますが、この仕事のどんなところが楽しいですか?

花の仕事って、可能性が無限に広がっていると思うんです。私は、生花をドライフラワーにしたりペーパーで再構築させたりと、生き物だからこその大変さを逆手にとって発想することが好きです。そこが楽しい。いままで花にたくさんの希望をもらったので、これからもっと恩返しができたらいいなと思っています。

“作品のカケラ”を持ち帰るまでがコンセプト
edenworksが描く「今と、それから」

--今回のエキシビション『Now/Then』では、会場の中央に大きなベッドが置かれ、その上にたくさんの花が舞っているように見えます。どのようなことを表現されていますか?

この作品では、生きた花の“瞬間(生きている一瞬の時間)と永遠(ドライフラワーに変化してから続く時間)”が混ざり合う「今と、それから」を表現しています。先ほどお話ししたように、人は生まれた時も死を迎える時もベッドにいることから、私はベッド自体を人生の縮図として考えています。人間と同じように花も、生から死へと変化していくので、時間の経過の表現として今回の作品にもベッドを用い、インスタレーションを完成させました。大きなベッドにたくさんの人たちが座ったり、寝転がったりして花を眺めてくださる姿は、とても豊かで平和な光景です。

--会場の入口や奥に飾ってあるガラスのボトルに入ったドライフラワーは、標本のようです。

毎週末「edenworks bedroom」用に仕入れた生花をひとつひとつ撮影して、綺麗に咲かせてからドライフラワーにして、また撮影する。その後はボトルに入れて標本。花を残していきたい気持ちで日常的にしてきたことは今回の展示にリンクしており、日々の象徴として並べました。そして、撮り溜めた生花とドライフラワーの写真たちは、今回のエキシビションのために編集して、花図鑑のようなZINE『Now/Then』になりました。
タイトルの『Now/Then』は日本語では「今と、それから」。edenworksが掲げている“花を棄てずに未来へ繋げる”という理念の一貫として、このような形で残しています。

--ドライフラワーとして残したり、写真に収めて残したり、いろんな形で未来へ繋げているのですね。今回のエキシビションのために作られたグッズのなかにはスワッグとボトルもありますが、こちらはどのようなものなのでしょうか?

今回のインスタレーションは、作品としてそのままの状態で残すことが叶わないものです。会期後に棄ててしまうのではなく、この場所でドライフラワーになったという証を、スワッグやボトルに再度アレンジして、作品のカケラを作っています。大切に愛でていただけるお客さまの手元に渡っていったらいいなという願いを込めて。

--3/4(土)にはミラーを作るワークショップ、3/21(火・祝)にはクロージングイベントも予定されていますが、そちらも同じ想いから企画されたのでしょうか?

そうですね。イベントを開催することで、一般のお客さまが花に触れる機会を作り、花の楽しさを実感していただきたいと思いました。ミラーを作るワークショップでは、花を日常的に持ち歩くコンパクトなミラーをご自身で作ることを。クロージングイベントでは、お客さまに好きなお花を摘んでいただくことを企画しています。3/20(月)にインスタレーションを一度解体し、最終日の3/21(火・祝)に別のセッティングをして、お客さまをお迎えします。ドライフラワーはとても繊細なので、パッケージングしてお持ち帰りいただく予定です。
このようにして今回のエキシビションで飾った花は、全て棄てません。“fragment package(作品のカケラ)”としてお客さまの思い出のひとつにしていただくまでが、『Now/Then』の構成になっています。

--ワークショップやイベントも含めて、“花を棄てずに未来へ繋げる”のですね。最後に、今後やりたいことがあればお聞かせください。

今回の『Now/Then』のように、edenworksが作ったものを見ていただくだけではなく、お客さまご自身に体験していただく作品づくりをしていきたいです。その体験をきっかけに花を大切にすること、そこから派生してものや人を大切にすることに繋げていただけるような作品を、今後も展開していけたらいいなと思っています。

--ありがとうございました。3/21(火・祝)のクロージングイベントも、たくさんのお客さまに体験していただけるといいですね。



photography Kase Kentaro
text Hiraiwa Mayuka


edenworks 篠崎恵美(エデンワークス しのざきめぐみ)

「花を棄てずに未来へ繋げる」を理念に掲げ、独自の感性で花の可能性を引き出し、花のロスを最大限に無くすクリエイションをする。店内装飾からウィンドウ装花、雑誌、広告、CM、MVなど、花にまつわる創作を広く行っている。週末限定のフラワーショップ「edenworks bedroom」、ドライフラワーショップ「EW.Pharmacy」、植物のコンセプトショップ「conservatory by edenworks」、花と人を繋ぐフラワーショップ「ew.note」など様々なショップを展開している。また、2017年にイタリア ミラノで紙の花プロジェクト「PAPER EDEN」を発表。ブランドとのコラボレーションやインスタレーションなど、アーティストとしても国内外で活動中。

https://edenworks.jp
IG: edenworks_